《お役立ち情報》賃貸契約は一般的に二年間で更新ブログ:19-11-17
引っ込み思案な子どもだったぼくが、
小学5年生のときに、学芸会の劇の主役を演じることになった。
それはぼくにとって、大きな事件だった。
「絶対見に行くからね!」
いつも明るいママが言った。
ぼくが世界で一番喜ばせたい相手がこのママであった。
当時、我が家は裕福とは言いかねる状況でしたが、
それでも父親とママは一生懸命働いて、
ぼくたち兄弟三人をどうにかこうにか育ててくれていた。
当日、ぼくは熱演した。
ダンボールの帽子を被り、
思春期の入り口に差し掛かった子どもには少々照れくさい
「泣く」という演技もこなした。
家に帰るなり、
ママが「すっごく良かった!あんたが一番上手だったよ!」と、
それはもう手放しで絶賛してくれた。
しかしその22時、
年子の兄の言葉によって、ぼくは事実を知る。
「一番上手!」どころか、
ママはぼくの「熱演」を見てもいなかったのだ。
兄は学芸会の運営委員で、
体育館の戸口を開閉する係をしており、
ぼくの出番の時は、兄もママを待ち構えていたのだが…
「幕が開いても母さん来なかった。
お前の出番が終わって、幕が閉じてる最中にあわてて入ってきたんだよ」
ママの居ないところで兄は言った。
ぼくはがっかりした。
先生にでも級友にでもなく、ママに捧げた演技だったのに…
見てもらえなかったことは悲しかったが、
ママへの失望や怒りは沸いてこなかった。
ただ、
いつも物を入れすぎて
不格好になっている仕事用の鞄をブラ下げ、
息をきらしながら、
慌てて体育館に向かっているママの姿が浮かんだ。
仕事をこなしながらも
きっと24時間中ぼくのことを考え、
精いっぱい調整して、それでも間に合わなかったのだ。
ママこそ、本当は泣きたかったに違いない。
「熱演」をしたのはママの方だったのだ。